はじめに
読んだ。
- 作者: Roy Osherove,島田浩二
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2017/05/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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買ったのずいぶん前で、途中まで読んで中断して、今回また再度最初から読み直した。
「はじめに」にある、"専門家はいない。私たちしかいないんだ。"という言葉は、何度見てもハッとする。僕たちの現場もそうだった。きっと多くの現場がそうだろう。
この当たり前のようでおそろしい状況を突破するにはチームの力、そしてリーダーシップが必要不可欠。
それも、エラスティック(融通性のある)リーダーシップが必要だ。本書はエラスティックリーダーシップとは何か、そしてチームの状態によって、適切なリーダーシップがある、ということを述べている。
まずは本書をブロックごとに復習していく。
エラスティックリーダーシップ
第I部 エラスティックリーダーシップを理解する
2章で書かれている、"リーダーシップスタイルをチームのフェーズに合わせる"ことが本書の主張である。
まず、チームには3つのフェーズがある。
- サバイバルモード ... 学ぶ時間がない
- 学習モード ... 自分たちの問題を解決するために学んでいる
- 自己組織化モード ... チームが自律的に課題を解決している
3が理想的なのは言うまでもないだろう。私も1か2しか見たことがない。気づいてないだけかもしれないが。
これら3つのフェーズにそれぞれ適したリーダースタイルがある。これが"エラスティックリーダーシップ"と言われるところだ。
フェーズ | リーダーシップスタイル | 下のフェーズに移動するには |
---|---|---|
サバイバルモード | 指揮統制型 | ゆとり時間を作る |
学習モード | コーチ | 自分たちで課題解決できるように教える |
自己組織化モード | ファシリテーター | チームへの要求が変わる |
それぞれのフェーズ、スタイルについてはあとの部で詳細に説明される。
3章ではバス因子についても言及されている。トラックナンバーと同じだ。
「このひとに聞かないと仕事が進まない」ひとのことをバス因子。単一障害点(SPoF)なんですね。ぼくはこれが大嫌いなので、今では立派な属人化ぜったいころすマンとして日々活躍している。
チーム内のバス因子を減らすためにペアプログラミング、レビュー、ローテーションなどのプラクティスが紹介されている。
チームの成長のためにはバス因子を取り除くことが重要だが、それよりもこの概念を紹介したもっとも重要な理由は、リーダーである自分がバス因子になる可能性があるからだと思う。
バス因子にならない、リーダーシップ。ここがポイント。
第II部 サバイバルモード
「とにかく頑張る」モード。多くのプロジェクトがこのモードだろう。
サバイバルモードを脱出し、ゆとりを作るためにはコミットメントを取り消すしかない。それをダメと言われれば詰んでしまうけど、このまま続けるともっと悪いことになる、とか、長期的にみると今ゆとりを作って組織を良いモードに変化させるとこういうメリットがある、ということを上層部へ説得しなければならない場面があると思う。ここが一番しんどいところな気がする。
サバイバルモード時に求められる指揮統制型リーダーシップは、何も作業レベルであれこれ細かい指示を出すことではないと思う。
ただ、意思決定の部分を指揮統制するのだと思う。具体的にはp42であげられている以下のようなことだ。
- 4.5.1 悪い決定を正す ... ex, ソースコード管理システムを使用していない
- 4.5.2 チームの強みを発揮する ... 強みが発揮できるアサインを行う
- 4.5.3 障害を取り除く ... メンバーが直面している様々な障害を取り除く(1on1で会話する)
また、4.6.1 チームとより多くの時間を過ごす
のも重要だと思う。サバイバルモード、大変なときだ。すぐに頼れるリーダーが近くにいたほうがいいに決まっている。
サバイバルモードから脱出することのポイントは2つ。 * コミットメントを取り消し、ゆとりを作る * 指揮統制型リーダーシップを行い、残るコミットメントを確実にする
こうすることで、仕事を円滑に進めつつ、ゆとりを作ることができる。そうすれば学習モードへ移行可能だ。
第III部 学習モード
大事な考え方は、5.2 谷を受け入れる
ことだと思いました。何かを学習する時って、最初は多く失敗したり、うまくいかないので、一時的に生産性が落ちる。(これを谷と呼んでいる)だけどそれを受け入れる。挑戦しているのであれば、失敗を許容することが大切だろう。
また、5.3 チームを谷に飛び込ませる
ことも大事。現職は谷ばかりで本当につらかったけれども(笑)技術的な谷につっこむことを許容し、またそれにより生産性が落ちることを許容してくれたリーダー、上司には感謝。
6章のコミットメント言語
もまた本書で大切な考え方である。チームメンバーがコミットメントを宣言するときの注意点である。抜け道を作らない、希望的な物言いをしない言い方をチーム内で徹底させること。つまり「何日までに終わらせます」と言ってもらうこと。ここを「〜までに終わると思います」「できるだけやりますけどできないかもしれません」ではないということ。
これを課すことはメンバーに対して心理的に負担を強いるかもしれないし、「そんなものやってみないとわからないじゃないか!」ということも多々あるだろう。そのときにリーダー、あるいはメンバーが考えることは、その6.3 コミットメントがあなたの制御下にあるか`ということである。
この不可能なコミットメントをどう可能にするか。直せるかわからないアプリケーションの性能問題を、来週10%改善します、とはなかなか自信がないかもしれない。そこで、「少なくとも毎日何時間この問題に取り組みます」「少なくともこの点に関してこのように調査して、来週のいつに報告します」といったことならコミットメントできるだろう。
まずはミーティングでコミットメント言語を使うよう、自分含め広めていくことからはじめていこう。
学習モードで重要な点は以下2つだと思う。 * 作られたゆとり時間で課題解決に対する挑戦を行う * 挑戦をする際にはコミットメント言語を用い、チーム内で合意すること
第IV部 自己組織化モード
自己組織化モードになったチームは、もはやリーダーが手をくだすことはほとんどないだろう。8章 クリアリングミーティング
を実施し、チームをファシリテートすること以外には。
この部での大事なことは9章 影響パターン
。何かを変化させる時、6つの影響力を考えておくといい。これはあとのエッセイでも多く参照される。
- 個人レベルの能力
- 個人レベルのモチベーション
- 社会レベルの能力
- 社会レベルのモチベーション
- 環境レベルの能力
- 環境レベルのモチベーション
例えば、社内のテックブログに記事を書いてもらいたいと思うが、なかなか書いてくれないとき。書こうとしないメンバーは、テックブログを書くドキュメンテーションスキルもあるし、根本の技術力もある。さらにテックブログを書くことで個人のプレゼンスもあがるので、書きたいと本人は言っている。
ただし、テックブログを書いても書かなくても給与は変わらない。これは環境レベルのモチベーションが欠如してると言える。
ひとに何かをおねがいするとき、それにはメリットがあるか、すなわちモチベーションが担保されるか、という視点が私も欠けがちなので意識したい。
エッセイ
このあとはエッセイ。おまけに自分が好きな記事を簡単に紹介したい。
第Ⅴ部 チームリーダシップについて知るべきこと
13章 おそらく技術的な問題ではない
たいていの問題は技術的な問題ではない。重要な視点だと思う。
15章 空気、食料、水をドキュメントする
ドキュメント、ぼく自身が強いこだわりをもってやってるのもあるが、"新しく入ってくるひとのために"ドキュメントを書くという視点はとても大切だと思う。それは新しいチームメンバーに、チームへの信頼感を与えることになります。
誰かに何かを聞かれるたびにドキュメントを書く。もちろん書くだけではダメで、継続的に書き続けられるよう軽く保っておくことが必要だ。リーダーはこのドキュメントのメンテナでないといけない。
23章 見守り、訪ね、敬意を示す
自己組織化となったチームのリーダーは、適切な問いをチームに行うことでより良い方向に導くが、この問いは私しかできないのはなぜだろうか?とメタに問うことが必要だと述べている。問い方をメンバーに伝えれば、最終的に自分は本当に必要なくなる。それがゴールなんだろうな。
24章 開発者が幸せな状態であれば、質の高い仕事が得られる
最近だとこういうことがよく知られてきてるんだと思います。それに気づいた企業はまず仕事道具であるPCにはフルスペックで、開発者に選択の自由を与えているでしょう。
メルカリのBe Professional Daysのように、業務とは関係ない、質を高めることに集中できる日を作ることの重要さも説いていますね。ぼくも勝手にそうしています。
31章 あなたはリーダーであって、すべてを知る者ではない
すべてを知りたい欲求にかられてしまう。だけどそうではいけない。チームメンバーを信頼し、チームメンバーの意思決定を尊重し、チームとして方向を合意する、それを導くのがリーダー。
第Ⅵ部 日本人執筆者によるチームリーダーシップについて知るべきこと
35章 コミュニケーションメンテナになる
この視点は新しいなと思いました。チーム内のコミュニケーションのデフォルトをオープンにする。また、メンバーにあった手段をとるというのはぼくも実践したことがあります。
46章 大事な問題にフォーカスする
チームの問題、組織の問題として、それを解決すればいいはずだ、そうやって思い込んでしまうことは、ぼくにもありそうだな、と思った。"チームが良くなれば事業やプロダクトがよくなるという思い込み"や、"何のためにチームをリードし、マネジメントするのか"という問い。忘れてはいけない視点だと思う。
おわりに
本書の内容は第四部の114pまでで終わる。1章ごとの内容も短いが、大切な内容が詰まっているのでリーダー、あるいはリーダーシップについで考えたいすべてのひとにおすすめできる本だ。