はじめに
私たちの仕事は間違いなく「混乱を解決する」仕事が大半を占めているといっても過言ではないでしょう。技術職であれ、専門職であれ、多くの人間が関わる仕事であれば必ず混乱が生じる。この混乱を解決する能力こそが価値があることだと思います。抽象的な「仕事ができるひと」というのはもしかしたら「混乱を解決できる」ひとのことを指してる気もします。
情報設計についての本を読んだので、自分のために内容を振り返ることをこの記事の目的とします。
身近な混乱
- チーム内共有資料の置き場所がファイルサーバ・wiki・redmine等のツールと散らばっている
- トラブルが起きているが情報が共有されず、わからないまま使っている利用者から苦情があがる
- チームをまたがって1つものを構築するのに、連携が取れず、誰も音頭を取らない
- 手順書通りに設定をしたが、使えるようにならないし、何が間違っているのか誰も分からない
自分の直近の業務(ソフトウェア開発業)を思い出すだけでもたくさんの混乱がありました。過ぎた今でもあれは時間を使ってしまったと後悔ばかり。
「問題」が発生したときに「どう解決するか」近年ではソリューションという横文字で「問題解決能力」なんて言われてきたけど、それってどんな能力よ?と思ったことはありませんか。情報社会の今、「情報設計」をすることで混乱とさようならする方法を身につける必要があります。
情報設計(Information Archtechture)
今日からはじめる情報設計 -センスメイキングするための7ステップ
- 作者: アビー・コバート,長谷川敦士,安藤幸央
- 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
- 発売日: 2015/10/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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前置きが長くなりましたが、本屋で出会ってビビっときて購入。表紙が惹きつけるものもありましたが、何にしても1ページに1テーマ(主張)、そして7つのカテゴリ分けという考えられた「情報設計」が読みやすそうだと感じて購入につながりました。お見事。
各章ごとに主張を振り返ってみたいと思います。各章では記載事実をまとめることだけに留め、個人の感想・意見は最後にまとめて述べます。
第一章 混乱を見極める
冒頭でさも前提のように話しましたが、混乱は情報と人によって引き起こされます。そしてひとは常に情報を設計しています。このブログを書くことだってそうです。情報はデータやコンテンツではありません。店のメニュー、アプリケーションのお知らせ、出欠管理票…考え上げればキリのないほど情報設計は存在します。事実と情報は異なることがあります。「お皿の上に2個のリンゴがある」「お皿の上のリンゴが4個から2個になっている」では受け取る情報は異なるでしょう。この章では「情報設計」「メイクセンス」「情報とは何か」という概念の説明です。
第二章 意図を表明する
「意図は言葉」これにすべて集約されると思います。意図は必ず言葉を持って伝えられるし、意味は伝言で失われます。「なぜ」が重要です。「なぜ」を考え続けることによって人は前に進み続けます。なぜが確固たるものになってから「何を」「どうやって」を考えます。ただしこの「なぜ」「何を」「どうやって」は相互に関係していて、必ず順番にはなりません。「どうやって」を考えているうちに「なぜ」が増えるかもしれませんし、「何を」が変わるかもしれません。
第三章 現実を直視する
チャネルとコンテキストという概念を紹介します。チャネルは情報の伝達路で、テレビ、Webサイト、Twitterといったものがあげられるでしょう。コンテキストはあなたが置かれている状況です。テレビを見ているとき、歯磨きをしているとき、電車に乗っている時。テレビを見ながらツイートすることが2つのチャネルが交差している状況です。ユーザがどんなチャネルを使うか、どんなコンテキストにいるかを考えることは情報を設計する上で重要です。
現実を直視するために「オブジェクト」が必要です。あなたは物事を考えているときに脳に地図を広げています。これをメンタルモデルと呼びます。これは当然他人からは見えません。他人と情報を設計したり議論する際にはこのメンタルモデルにあたるオブジェクトがあるといいでしょう。本書では10種類があげられました。
ブロックダイアグラム / フローダイアグラム / ガントチャート / 4象限ダイアグラム / ベン図 / スイムレーンダイアグラム / 階層ダイアグラム / マインドマップ / スキマティック / ジャーニーマップ
第四章 方向を決める
物事には常に階層が存在します。階層間は影響し合います。1つの決定が別のものに影響を与えます。階層を意識して情報設計することが重要です。
言語的不安程度を減らすことが重要です。言語的不安程度とは「自分の言葉が自分たちの文脈における標準に合っていないのではないか」という不安です。環境が変われば自分が使う言葉が伝わるか不安になるでしょう。専門用語ばかりで説明されたときと、平易な言葉で説明されたとき、どちらのほうが言語的不安定度が高いかは自明でしょう。言葉を使うときは受け取るひとが理解できるような言葉を使うことが重要です。
情報を設計するとき、使う言葉のリストと、使わない言葉のリストを作ることが有益だと主張しています。例えば複数の意味を持つ言葉や、意味自体が抽象的で混乱を招くような言葉は使うべきでないでしょう。
選択肢と意見に気をつけましょう。何が「できるか」という選択肢と、何を「すべき」という意見は違います。
第五章 距離を測る
ゴールと基準線を決めましょう。目標と、その達成度合いの評価基準のことです。ゴールは達成可能か分かるものにしなければならず、進捗を評価できなければなりません。
フラグを活用しましょう。フラグはある地点に達した時に私たちに自動的にお知らせしてくれるものです。(例えば、ガソリン残量が少なくなったときに点灯するランプ、大切な人が目的地についたらくれるメール)
進捗の測定にはリズムがあります。毎日なのか、週に1度なのか、適切なリズムを見極めましょう。そのためには情報へのアクセス方法(簡単に見ることができるのか、手に入れるのに時間がかかるのか)と、測定結果が役に立つ期間を考えましょう。1年後に役に立つ情報であれば月に1度で良いかもしれません。
第六章 構造で選ぶ
様々な分類法があります。図書館で使われるデューイ十進分類法、植物や動物の科学的分類法。分類することで物事を構造化し、わかりやすくします。分類には正確な分類と曖昧な分類があり、これらは明快さと柔軟性においてトレードオフの関係にあります。正確な分類であればあるほど議論が発生しなくなりますが、柔軟性を欠きます。曖昧であればあるほど両方にまたがるものが発生したときに柔軟に対応できますが、議論を呼ぶでしょう。(音楽や映画のジャンル分けは、曖昧さを含むでしょう。)
混乱を生まないために、できるだけ正確な分類であるほうが良いでしょう。分類を考える上ではファセットを考えます。ファセットとはモノが持つデータのことです。CDであればレコード会社、アーティスト名、発売日、値段があげられます。このファセットの中でできるだけ正確なものを選んで分類すると良いでしょう。
人間は複雑であり、ある分類法は正しくても、伝わらないかもしれません。トマトは果物に分類されるが、多くの人が野菜として認識しているでしょう。人間の複雑さを考慮に入れることは重要です。
物事を分類して体系化することで、あなたの意図を反映できます。そしてそれはあなた自身のこれまでの経験、地位、考えから生まれ、その体系化はあなた自身を表すと言えるでしょう。
第七章 調整に備える
何事も完璧に解決することは困難ですが、前に進むことは可能です。取り組みましょう。解決しましょう。行動することが価値です。
情報設計は表には出ません。優れた情報設計だ、なんて誰も言いません。あなたがそういう声のために情報設計をやろうとしているのであればやめたほうがいいでしょう。
間違いを正すことは難しいこと。適切な質問をするのは難しいこと。最初からやり直すのは難しいこと。
ゴールを定め、到達することは価値のあること。他に人が理解できる言葉で意思疎通することは価値のあること。前向きな変化を与えることは価値のあること。この世界を少しでもくっきりしたことにすることは価値のあること。
まとめ・感想
1・2章は概念の話で理解しづらいですが、3章以降具体化されてきてわかりやすくなってきます。あらゆる混乱を解決するために必要な道具が散らばっているので、これを集めて実践すると良いのはわかりますが、この本の情報設計においては「読みやすさ」を重視したがゆえに「ツールとしての設計方法」の参照のためにはわかりにくくなっています。
「なぜ」それが起きて「どうやって解決するか」 問題解決はこんなにシンプルなのに、現実は手がつけられないほど複雑です。大量の情報、大量のひと、これをどう解決して幸せな世界を作ることができるか。。。確かにこれができればどの組織からも引っ張りだこなのは間違いないですね。
冒頭に述べた「仕事ができるひと」って専門がなんだろうが、たいていどの組織でも活躍できるんですよね。現実を直視し、ステークホルダーを見極め、適切な言葉を使い、評価可能なゴールを定め、構造化して物事を周囲のひとに説明することで、ひとを動かし、問題を解決していくんでしょう。
仕事術やや思考法や、そういったものは今までも関心がありましたが、より上位概念である情報設計を知れたのは自分にとって有益でした。混乱は仕事中たくさんあるけど、そもそも情報を設計しようなんて考えがなかったもの。
仕事がわけのわからんことが多すぎて無駄が多い、なんていうひとはおすすめです。うちの会社はまさに情報設計が下手な会社であり、うちの会社で「仕事ができるひと」は情報設計ができるひとであると断言できます。
今年で1番読んでよかった本でした。