ツナワタリマイライフ

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【批評】「思考力を鍛える30の習慣」

はじめに

友人の勧めで読んだ。

ポール・スローンの思考力を鍛える30の習慣

ポール・スローンの思考力を鍛える30の習慣

友人はコンサルをやっているので、僕の想像をはるかに超える量の思考を働かせないといけないのだろう。

対象読者

この本の概要を確認しておこう。

この本は「思考法の総合的なガイドブック」である。しかも、

  • 思考法の本によく見られる欠点は避けられている
  • 理論面もしっかりしている
  • 実際的なアドバイスの面も充実している
  • 思考の達人たちの成功実例がふんだんに紹介されている

とある。

そして、「世界には急いで解決しなくてはならない課題が山のように」あり、これらの課題に対する新しい解決策を打ち出すために、本書に書かれている方法が役にたつと述べている。

つまり、思考力とは、日常やビジネス上、あるいは世界平和(?)のために解決しなければならない困難な課題に対して、解決策を提示するための発想をひねり出す力のことだと言えるだろう。

私のスタンス

まず、私はこの「思考力」という言葉にそもそも懐疑的である。上記で定義した発想を提示する力が「思考力」と名付けられることにあまり腑に落ちていないのだ。

これは命名が自分にとって気にくわないというだけで大した問題ではないが、そのせいで本書もはじめから疑いの目で見てしまった。

近年の何でも〜力と名付けるムードに嫌気が刺しているのもある。はじめからこういう見方をしているので、本書に対して批判的な目線で読んでいったので、今後もその態度で説明していくであろうことを先に断っておく。

30の習慣

まずこの30の習慣をざっとながめよう。

  1. なぜ考えかたを変えるのか
  2. 反対のことを考える
  3. 思い込みと向き合う
  4. 問題を分析する
  5. 問う
  6. 組み合わせる
  7. 並行思考
  8. 想像的に考える
  9. 水平的に考える
  10. ほかの人が考えないことを考える
  11. イデアの評価をする
  12. むずかしい判断を下す
  13. 言葉で考える力を伸ばす
  14. 数学的に考える
  15. 確率を理解する
  16. 視覚的に考える
  17. 感情知能を伸ばす
  18. 会話の達人になろう
  19. 議論に勝つ
  20. じっくり考える
  21. 記憶力を最大限に高める 22.実験し、失敗し、学習する
  22. 物語の力を使う
  23. ユーモアを交える
  24. ポジティブに考える
  25. 目標を書いて実現をめざす
  26. 優先順位を決め、的を絞る
  27. 考えを行動に移す
  28. よくあるまちがいを避ける
  29. 脳を強化する

もう一度いうが、これは「思考力を鍛える30の習慣」である。

ぼくが1番嫌いというか、それこそ思考力(1つの物事、あるいは問いに対して自分で考える力)が阻害されるのは、列挙に対しての粒度がバラバラなことである。

まずこれを眺めただけでも、15は14に包含される。そして15の確率の話は29のよくある間違いを避けると同じだ。(思い込みに対して確率を検証すべきという立場)5の問うはほぼ全ての項目にあてはまるだろう

さらに考える力の習慣なのに「じっくり考える」とある。確かに考えた後一時的に別のことをすることが有益なのはすでに明らかになっているが、他は考えるための別の視点を提案したり、陥りがちな思考の癖への警告だったりするのに、これだけ考える態度になっている。

なんなら1つめは習慣なのに「なぜ考え方を変えるのか」という前提の問いになっている。習慣じゃないのか。

つまり、30項目は「習慣」で並列になっていないので、シーンごとにカテゴリわけしてほしい。

というか、無理やり30にしたんじゃないか、とすら思う。このように章立てが雑だと、ツッコミに頭がまわってしまって「結局この本は何が書いてあったのか」の把握がしづらい。

冒頭で示したように最初から批判的に読んでしまっているので最後までこの態度を覆すことができなかった。

この本が示したこと

ただケチつけるだけではダメなので、代案を自分なりに考えてみる。

この本は大きく以下のことを示している。

ひとの思考には癖があるので、それにハマらないようにすべき

  • 2 反対のことを考える - 私たちは自分たちが考えたいように考える
  • 3 思い込みと向き合う - 同上
  • 29 思い込みを避ける - バイアスとか

テクニックとしての思考法

  • 4 問題と向き合う - 「なぜなぜ法」「5W1H」「蓮の花」(調べても出ない)
  • 6 組み合わせる
  • 7 並行思考 - 立場、態度が異なるポジションを並行に交代で実施し、冷静に議論を行う
  • 9 水平思考 - 支配的な考え方をはずして考える。3に注意し、それを除いて考える方法
  • 11 アイデアの評価する
  • 12 むずかしい判断をする - 題は意味不明だが、中で扱うペア式順位法は使えるテクニックだろう。
  • 21 記憶力を鍛える - 思考法との関係が不明だが、記憶力を高めるテクニック。

基礎力を鍛える系

  • 14 数学力を鍛える - 数学の教養ぐらい身につけてねと言ってるだけ
  • 15 確率を理解する - 確率の教養ぐらい身につけてねと言ってるだけ
  • 17 感情知能を伸ばす - いきなりemotional intelligenceの話が出てくる。思考力との関係は明記されていない。

行動習慣

  • 13 言葉で考える力を増やす - 読書、知らない言葉を辞書で調べる。書く、言葉で遊ぶ、など。言語能力を鍛える、と言ってもいいかもしれない。これは習慣っぽい。
  • 16 視覚的に考える - 技術とは言えない気がする。マインドマップは手法だけど。図示する癖をつけようね、であれば習慣っぽい。
  • 18 会話の達人になろう - 意味不明。質問をする、聞く、褒めるなど。思考力との関係が不明。
  • 22 実験し、失敗し、学習する - 新しいことに取り組めと言っている。大事だと思うし、習慣っぽい。

不要なもの

  • 5 問う - 思い込みと向き合うためには問わないといけないし、なぜなぜ?も問うている。章を立てる必要がない。重複。
  • 8 創造的に考える - 意味不明。創造的に考えるためのテクニック本じゃないのか。内容も他章と重複。
  • 10 ほかの人が考えないことを考える - そのために何が必要なのかを述べてほしい。
  • 19 議論に勝つ - 習慣でもなんでもないし、議論に勝つかどうかはどうでもいいのでは。
  • 20 じっくり考える - 整理する、寝かせる、など有効なものもあるが、習慣とまでは言えない。
  • 23 物語の力を使う - 他者の説得に物語が有効という内容だが、思考力との関係が不明。
  • 24 ユーモアを交える - 何の話なんだろう
  • 25 ポジティブに考える - 自己啓発
  • 26 目標を書いて実現を目指す - あっ自己啓発
  • 27 優先順位を決め、的を絞る - 仕事術だ
  • 28 考えを行動に起こす - 自己啓発
  • 30 脳を強化する - 意味不明

後半になるに連れて雑になってしまったことは否めない。こう見てもわかる通り、無理に30にしたか、タイトルが不適切か、いろんな理由で「30の習慣」は言い過ぎであることがわかると思う。後半は思考力どこいった?ってなっています。

「陥りがちな思考の癖」を把握した上で、実用的なテクニックとそれが使えるシーンを学ぶ。さらに持っておくと良い基礎能力や、それを身につけるための習慣を紹介する。こういった程度で思考力を高めることを一切考えてこなかった人向けの入り口の本としては十分といえる。この本は範囲を広げすぎてよくわからなくなってしまってるように思える。

別のおすすめ

まず、思考法というか、発想法としては以下の本をぜひ読んでほしい。

実用的なテクニック、ツールが本書より多い42種類、かつその方法がなぜ使われてきたか、どこで使われてきたか、歴史的・哲学的ルーツまで触れている。

以下はついで。

21の記憶力については以下の本を読んだほうがいい。本書で載っている手法ももちろん載っている。

30の脳については以下。

脳が認める勉強法――「学習の科学」が明かす驚きの真実!

脳が認める勉強法――「学習の科学」が明かす驚きの真実!

さらに余談だが、そもそもこの本を読んでいた彼女は自分自身を見直して、心入れ替えてやりなおす!その5つの施作の中で、ビジネスにも通ずる思考力、のくだりでこの本をあげていた。脱線するが、

自分が幸福を目指しての心の入れ替えであれば、資本論の観点から自分の幸福を見つめ直してもいいかもしれない。

原著にあたってみた

あまりにも章のタイトルが悪いし、まとまりも悪く、この本が売れてることが疑わしかったので、英語の原著にあたってみた。ここまでくると意地である。

How to be a Brilliant Thinker

30の習慣とは言ってないしね。

しかし驚くごとに(?)内容はほぼその通りであった。そもそも章の英語名は日本語版にも書かれてある。ということは「30の習慣」というタイトルがよくなかった可能性がある。

Forewordを読んでも、日本語と内容は同じだった。

では30の習慣でないとしても、再度本書の内容を確認すると、「brilliant thinker」になるために、まずなぜ考え方を変える必要があるかの背景を説き(これは"はじめに"のようなものだろう)陥りがちな思考の罠、そして重要な思考法、そのための考え方、そしてその他周辺分野で必要なことを雑多に書いている、と言った風に見える。

原著を1から全部追いかけたわけではないが、How to be a Brilliant Thinkerだとしても、もうちょっと章構成を工夫したり、不要なものを削り厳選できたのではないかと思う。ちなみに原著のサブタイトルはExercise Your Mind and Find Creative Solutionsで、脳のエクササイズをして想像的な解決策を見つけよう!なのでやはり発想にフォーカスをあてた本で、その技術と、それらを支える周辺知識を述べた本であることはただしそうだ。

日本のAmazonのレビューは絶賛だが、アメリカのほうでも同様に絶賛だった。

www.amazon.com

top positive reviewを見てみると

An excellent book however it’s missing one extremely importand and powerful element when it comes to creative thinking; Hibernation. Often called the Archimedes Eureka! Principle! I would highly recommend little book titled ‘A Technique for Producing Ideas’ by William Bernbach. The book can be read in ten minutes and immediately employed.

素晴らしい本だけど1つ、想像的な発想をするときにとても重要な要素をが欠けている、それは冬眠。アルキメデスエウレカ!で知られている原理だよ。William Bernbeachの'A Technique for Producing Ideas'を強くおすすめするよ。この本は10分ほどで読んでしまえるからね。

一度考えた後、一度脳の外に出して、そのあとにEUREKA!がやってくるんだぜ、やってみなよ〜ってことが書いてあるけどこのひとはなんでこの本に高評価をつけたんだ。

次にtop critical review

Good But Repetitive

This book was good on telling someone that doesn’t have common sense or use their brain how to exercise their brain in order to remember and figure puzzles out. I thought it was well written, however kind of repetitive exercises, but worded differently. If your interested in psychology,and personal development then read as beginner book.

この本はパズルを解くために脳を運動する方法を知らないひとにとっては有益だろう。でも僕はここに書かれてることは同じことを違う言葉で繰り返されてるように思いました。もしあなたが興味を持てたのなら、自分を開発するための最初の本としてはおすすめです。

まったく同意ですわ。。。

おわりに

書評というのは紹介したくなるものしか書くべきではないと思っている。今回ははじめて批判的な書評をやってみた。これまで経験がなかったのでやってみたいという気持ち半分と、この本について勧めてくれた彼女と話すために自分の感想をまとめておかないといけないと思ったのが半分だ。

もっと言えば僕はきっと対象読者ではないのだと思う。ソフトウェア・エンジニアは確かにソフトウェア技術で問題を解決する職業だが、ここであげられてる「発想法」が強く必要なわけではない。(学び続ける力のほうが、よっぽど大事)そのため、僕に届かなかった上に、僕が「気に食わなかった」のでこのようなレビューになってしまった。

しかし、原典にあたる訓練もできたし、批判的思考は大切なので良い実践の場になったと思う。

繰り返し述べているが本書は大事なことが節々に書かれているが、発想法を学ぶなら別に良い本があるし、何より内容にまとまりがなく、かつ枝葉の部分しかないため、思考力を鍛えたいとはじめて思ったひとの入り口にはおすすめできるが、深く学びたい場合はこの本よりも、もっと対象を絞って深く論じた本を読んだほうがいいという見解だ。

友人から話をもらわなければ1つの本に対してここまで深く言及しなかっただろうな。感謝。